【桜随筆017】いわき市内一本桜番付写真展示

 平成23年(2011年)3月11日。いわき市泉町の県道を車で走行中、緊急地震警報が鳴り響いた数秒後、経験したことのない激しい揺れに襲われました。あわてて車を停車したものの、車両がひっくり返るのではないかというほど大きな揺れ。電柱は左右に大きく振れて、電線が上下にぐわんぐわんと波打っていました。近くの家の瓦がガシャンと一気に崩れ落ちました。あまりにも激しい揺れの為に車から降りることもできず、道路上でただただハンドルを握って電柱が倒れてこないか見ていることしかできませんでした。その後少し揺れが収まった際に、目の前にあった幸楽苑の駐車場に停車。家族に電話する手が震えました。東日本大震災。いわき市は3月11日、4月11日、4月12日と震度6の地震余震に3度襲われました。一度復旧した水道が4月の余震によって再度壊滅した時のやるせなさ。それでも自宅は断水やガスが止まったりといった程度の被害しかありませんでしたので、自衛隊の給水を受けながらなんとか生活できました。広域都市であるいわき市は被害の度合いや復旧に向けてのスピードが地域によって様々でしたが、仕事でもプライベートでも自分が関わる人々は前向きに毎日を過ごされていると感じました。

 気持ちの上で震災が起きたことはあまりにも大きなことでした。青森、宮城、福島。これまで仕事で関わってきた地域の惨状。テレビから流れてくる衝撃的な津波映像。いわき市の沿岸部も同様に大きな津波被害を受けました。よく知った沿岸部集落が丸ごと壊滅していました。そして原発事故。様々な情報が散乱する中で、正しい情報を見極める力も必要でした。そして自分の心の居場所を定める軸が必要でした。そうしないと現実感のない大きな惨状の中で、なにをどうしていけばいいのかわからなくなって、気持ちがふわふわとしてしまうのです。ひとつの大きな軸は家族でした。家族のために物事を判断していけば心の軸は定まると考えました。

 震災から1ヶ月以上が経過した4月下旬。自分の生活は日常を取り戻しつつありました。そんな中いわき市小名浜の二ツ橋「酒のまるとみさん」にて、いわき市内一本桜番付の写真を展示していただきました。いわきWebアワード2009(平成21年)以来のお付き合いがある酒屋さん。実は震災前に小名浜三崎公園のホテルで、いわき市内一本桜番付の写真展示企画が決まっていました。しかし震災によりホテルは被災。写真展示どころではなくなってしまいました。女将さんにその展示企画の取次ぎをしていただいていた経緯から、お店で写真展示をしないかと声をかけてくれたのです。前年までに撮り集めたいわき市を代表する一本桜の数々。こうして大きくプリントして飾ってみると、なんて華やかで個性的な桜なんでしょう。台紙や展示タイトル、レイアウトまでを全て女将さんによるものです。この展示では本当にたくさんの方に喜んでいただきました。

 今思えばこれは「いわき市の桜にこだわる」ということでの終着点になった企画でした。桜は日本人の誇り。もっと福島県の桜を体感したい。もっと良い写真が撮りたい。こんな時だからこそ、もう一度日本一の桜「三春滝桜」を見に行きたい。そしてその周辺各地に君臨する憧れの一本桜たちにも会いに行こう。日常を取り戻しつつあった自分の生活に、大きな生きがい、暮らしの中で方向を見失わない軸となるものがもうひとつできました。桜です。この年に見た桜の美しさが忘れられません。

茨城県の桜

常陸国一千三百年の桜史と平成の桜の記録 茨城一本桜番付 平成春場所の発表