【墨田区】隅田川堤と隅田公園の桜
隅田川の桜は、常陸桜川のヤマザクラが移植されてはじまった歴史があります。
「墨堤植桜之碑」(登録文化財)はその事を記した石碑です。
石碑には「常州櫻川植之隄」とあります。 四代将軍徳川家綱公の命によって桜が植えられ、その後時代ごとに様々な人によって植え継ぎがなされて現在に至ります。 また、隅田公園は旧水戸藩下屋敷「水戸徳川家小梅邸」があった場所であり、このことからも茨城県にゆかりのある桜名所といえます。
水戸藩下屋敷小梅邸跡地
明治維新の原動力となった『正気の歌』は尊皇攘夷論者、藤田東湖先生がここ「水戸藩下屋敷小梅邸」に幽閉されている時に書いたものです。
『正気の歌』の中に出てくる「発しては万朶の桜となり」は当時の日本人の桜観に大きな影響を与えたといわれてます。
常陸桜川のヤマザクラが移植された隅田川の桜。
西郷隆盛も心酔していたといわれる藤田東湖先生。
幕末の志士達は当時どんな思いで隅田川の桜を見ていたのでしょう。
藤田東湖「天地正大気」の漢詩碑
銀座木村屋總本店の桜あんぱん
明治8年4月4日。水戸藩下屋敷小梅邸(現在の隅田公園)を行幸されてお花見をした明治天皇に山岡鉄舟(旧茨城県知事)が献上したのが木村屋の桜あんぱん。
木村屋初代当主 木村安兵衛は現在の茨城県牛久市田宮町出身。
へそに奈良の吉野山から取り寄せた八重桜の花びらの塩漬けが埋め込まれた季節感あるあんぱんは、明治天皇のお気に召し、皇后陛下のお口にもあったといわれており、後に宮中御用達となりました。
このことから4月4日は「あんぱんの日」として記念日に制定されています。
都が京都にあった時代は恒例だった天皇の観桜会。 それが東京で実現した歴史的な一日。 これも立派な茨城県の桜史であり、常陸桜川のヤマザクラが移植されてその歴史がはじまった隅田川の桜と後の水戸藩との桜縁を感じるお話です。
東京に来たらもはや素通りはできないということで、水戸桜川千本桜プロジェクト代表の稲葉先生にこの日夕方に案内していただきました。 いやぁ、以前食べたことはありましたが、やはり美味しい。桜の塩加減が甘い餡を引き立てます。日本一のあんぱんです。
長命寺桜もち 山本や
享保2年、隅田川堤の桜の葉を塩漬けにして桜もちを考案し、長命寺の門前で売り始めたのがはじまり。 皮をむいて(川を向いて)食べるのがいいらしいです。 この日は早朝だったのでまだ営業前。
写真は以前桜愛好家鈴鹿のKさんからいただいた長命寺桜もち。(その節はご馳走さまでした)
長命寺本堂
長命寺には立派なしだれ桜がありました。
野口雨情文学碑
「都鳥さえ 夜長のころは 水に歌書く 夢も見る」
野口雨情が昭和8年に詩謡集の序詞執筆のために隅田川に来遊した際に唄われた都鳥の詩。 野口雨情といえば茨城県北茨城市出身。 この日の午後、水戸桜川千本桜プロジェクト代表稲葉先生に同行して別件で訪れた豊島区の光圀公ゆかりの場所で、偶然にも「雨情枝垂(宇都宮の雨情邸宅に咲いていたとされる珍しいしだれ桜)」に出会うという、ちょっと鳥肌な出来事がありました。
花の碑
♪春のうららの 隅田川〜
隅田公園には、瀧蓮太郎作曲の「花」の歌詞が彫られた記念碑があります。
3番の歌詞「錦織りなす長堤に」は、ヤマザクラならではの様々な色合いが表現されていると聞きました。※作詞者は武島羽衣。
現在のソメイヨシノ一色の風景しか知らないと、なかなか想像し難いと思いますが、ヤマザクラは一本一本DNAが違うので、花色、葉色、開花時期が微妙に異なります。
「錦」というと紅葉を想像しがちですが、茨城県桜川市に行けば春のヤマザクラ群が「錦織りなす」と表現されることに違和感はないとわかります。
隅田川堤は常陸桜川のヤマザクラが移植されてその歴史がはじまっています。
江戸といえばヤエザクラに代表されるサトザクラも有名です。隅田川堤はその後も「桜歓進」として、ヤマザクラや様々なサトザクラの植え継ぎがされてきた江戸を代表する桜名所です。
しかしこの「花」が発表された明治33年の少し前からは新種のサトザクラ「ソメイヨシノ」一辺倒の植樹が進んだようです。(※明治16年にソメイヨシノ1000本を植えた記録があります)
「花」が作詞された頃はまだまだヤマザクラやヤエザクラが残っていたと思います。 歌詞にも出てくる「柳」があったにせよ、桜がソメイヨシノ一色では「錦織りなす」とは表現しないであろうと私も思いました。 また、元々歌のタイトルは「花」ではなく「花盛り」でした。 つまり、瀧蓮太郎の「花」は、現在のソメイヨシノ一辺倒の風景ではなく、ヤマザクラやサトザクラが醸し出すもっと様々な色が連続するまさに花盛りの風景が歌われているのです。
現在の隅田川堤には、様々な品種の桜が植樹されており、将来「花」に歌われたような本来の「錦織りなす長堤」が見られるかもしれません。
江戸の桜風景復活にはヤマザクラの植樹も進めば最高です。
※ソメイヨシノが嫌いなのではありません、むしろ大好きですが、たくさんの品種の中のひとつであることが隅田川堤の桜史としてはいいのではという考え方です。
三春の滝桜も植えられています。
参考文献『桜川と水戸藩の桜』(水戸桜川千本桜プロジェクト)
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