【桜随筆027】旗桜と桜マニア
平成25年4月、常陸太田市旌桜寺跡の旗桜に訪問した際に、自称桜マニアという方とお会いしました。「旗桜を知っているとは君はよほどの物好きだね?私は桜オタクじゃなくて桜マニアだよ」とおっしゃるその方。桜の開花シーズンは2ヶ月間ほど仕事を休んで茨城県と栃木県の一本桜を巡ることを40年も続けているそうで、普段はデジカメですが、ここぞという時には大きなフィルムカメラで黒い布を被って撮影されているそうです。お話を伺っていると、茨城県内あらゆる一本桜を熟知していらっしゃる凄い方でした。茨城県内の桜は全て開花データを整理してノートに記してあるとのこと。インターネットは苦手なのでそれらの膨大なデータと写真は一切公開していないとおっしゃっていました。「この旗桜はもしかしたら日本一貴重な桜かもしれないよ」 旗桜の見所は「雌しべが花びら化して旗のように立つ」ということをこの時に教えていただきました。全国に旗が立つ桜はそれなりにあるそうですが、この場所は歴史もあって、旗桜が咲いているにも意味があると。そういったことも含めて、これほどの老木、巨木の旗桜は他所にはそうはないはずだとおっしゃっていました。旗の見つけ方を教わって一緒に探しました。その後県内の桜の開花状況について情報交換となりましたが、お互い桜好きということで話が尽きません。日立市十王ダムの対岸に咲く「高原の石割桜」では、ダムができる前は県道沿いの崖に咲いていたため近くから鑑賞できたという話や、知る人ぞ知る大子町最大のヤマザクラ「箕輪の誉れ桜」への行き方など。貴重な話ばかりお聞きしました。それともうひとつ、巨大な桜の中にはタネがくっついて発芽して、成長するにしたがって一本の木になってしまった合体樹があるということをおっしゃっていました。あそことここの桜はそれが疑わしいと。正確には1本ではないかもしれないけど、幹を切るわけにもいかないし確かめようがないねと。これも実に興味深いお話しでした。今となってはあの時連絡先を聞かなかったことが悔やまれます。「またどこかの桜で」そう言ってお別れしました。あれから6年が経ちますが、まだ再会は果たせておりません。
全国にはたくさんの桜愛好家がいらっしゃいます。それぞれ訪ね歩く範囲や趣向が違っても、同じ趣味仲間であることは間違いありません。また、インターネット上だけが情報の全てではないということも実感しました。むしろ茨城の桜においては、まだまだネット上に情報が出ていない桜の方が多いのです。長年歩いている人には敵いません。独自の観点や情報を持っている桜愛好家と出会えるのもまた桜巡りの楽しみです。
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